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2016年 06月 09日
武冨正一著 『馬来語大辞典 縮刷版』
武冨正一著 『馬来語大辞典 縮刷版』_a0051297_15223077.jpg出版社 旺文社
昭和17日12月25日印刷
昭和18年1月15日発行 (5,000部)

元の辞書は枕代わりになると言われた大きさだったが,縮刷版はこの大きさである (赤いのはKKM). いわゆる「インディアンペーパー」なので,1074頁でも383頁のKKM とほぼ同じ厚さである.

戦時中の辞書としては,宮武の辞書については sudah だったが,この武冨の辞書については selama ini belum, これまで取り上げたことがなかった.

今回これを取り上げたのは,家内が町の図書館で借りてきた江利川春雄 『英語と日本軍 知られざる外国語教育史』 (NHKブックス, 2016年3月),第二章「日本軍の外国語教育はどう変遷したか」の中の一節「南方侵攻と大東亜語学」で,以下を読んだのがきっかけ.
さらに、軍事作戦開始の12月中旬には、陸軍参謀本部が欧文社(1942年に旺文社と改称)の赤尾好夫に『馬来語大辞典』の刊行を依頼した。参謀本部で赤尾は某大佐から次のように言われたという。

大東亜戦争の勃発と共に大東亜の文化工作と云うものは現実に具体化されてきた。吾が国は急に之に具えなければならない。その一つとして先ず馬来語の良い辞書が必要であるが残念乍ら無い。所が此処にに武富(庄一)と云う実に篤学の方がいて、彼地にも長くいて馬来語著述に従事すること30余年で、遂に世界に類例のない詳細な辞典(の原稿)を作りあげた。(中略)事情があって是非共(1942年)三月中に出版したいという。

このような事実上の軍の命令を受けて、赤尾は本文1074頁の大冊である陸軍南方調査室監修・武富庄一著『馬来語大辞典』を突貫工事で完成させた。すべての組版が完了したのは1942年2月15日で、奇しくもシンガポール陥落の日だった。初版は同年4月で、翌年1月には縮刷版が刊行され、さらに一年後にも一万部が増刷された。(p.132-133)

武冨正一著 『馬来語大辞典 縮刷版』_a0051297_6294054.jpgyang の項は5頁にわたり(KKM は15行),また左のような地誌的情報満載の大辞典である.

例えば, この辞書の madu はこんな具合である.

madu (a) (Skr.) (この語は主として果汁又は果肉の蜜の如く甘き葡萄液の如きもの) 蜂,蜂蜜,花蜜,糖蜜,(比) (蜜の如く)甘美な物,甘味,非常なる快感を与えるもの.(以下略)
madu (b) (アラビア人・中国人等の)一夫多妻,(アラビア人等の)一妻多夫.
madu (c) (Ar.) 恋敵,恋仇,(恋・恋愛の)競争者,敵手,対抗者,相手.(稀) (恋のために)競争する,張り合う.

KBBI も madu の 2 に,ki. orang yg menjadi saingan dl percintaan; pesaing dl percintaan が見える.KKM も,「伴添い,相妻」 を 1 として 「2. 恋敵」 を追加してみよう.[Sg]


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by sanggarnote | 2016-06-09 15:22 | 辞書


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