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2007年 04月 09日
象は鼻が長い
金谷武洋著の三上章評伝(主語を抹殺した男)を読み,「象は鼻が長い」 (1960) の三上文法の記憶があらためて蘇えった.以下,『インドネシア語の中庭 1994-2003』から再録である.


gajah & belalainya 

「象」gajah とその「鼻」belalai,つまり「象は鼻が長い」という文についての話である。

客員教授のラムリ先生は目下日本語を勉強中だが,学生諸君の及びもつかない熱心さで復習予習を怠りなく,「象は鼻が長い」という構文を学ぶところまで進んで,先生のイブ加藤もラムリ先生を納得させる文法的説明をするのがなかなか大変な段階にまできたのはまことに喜ばしいことだ。

ところで上の「象は鼻が長い」はその日本語教科書のなかに出てきた例文だが,ラムリ先生はこれに Gajah berbelalai panjang. というインドネシア語訳を与えてノート に取った。何故に Gajah belalainya panjang. 或いはまた Gajah panjang belalainya. と書かないのだろうというのが私の印象だったが,そのときは口を挟まなかった。

そしてその次の授業には「... は ... が」ではなく「... は ... は」,「... は ... も」が出てきた。

こうなってくると,最初に「象は鼻が長い」を Gajah berbelalai panjang. としたのが不都合に感じられてきた。Gajah berbelalai panjang. は「象は長い鼻をしている」の訳として適当なインドネシア語であり,「象は鼻は」,「象は鼻も」という風に展開するその元になる文とするには使いにくいわけである。

そこで私が口を挟んでこれこれしかじかと説明してラムリ先生も初めて納得したようであったが,何故,先ず Gajah berbelalai panjang. と理解したかというと,それが正しいインドネシア語であり,Gajah belalainya panjang. はジャワ語の構文の影響で生じた言い方であるという理由からであった。そこでアドバイスをした。日本語の構文を理解するにはジャワ語で考えるのがいいのだと。

Gajah panjang belalainya. はいい,しかしGajah belalainya panjang. はジャワ語的な構文として抵抗があるというのが統一入試の国語問題出題責任者ラムリ氏の国語感覚なのであった。書かれたもので読んだことはあるが,こうはっきりこのジャワ語の影響の問題を身近に認識したのは私としても初めての経験であり,これは貴重な経験であった。

たしかに思えばあの「は」最多記録のサンスクリット語云々の例文もジャワ語の直訳としてあるのであった。

「ところでサンスクリット語は,その構造は,現代のヨーロッパ諸語と比べるならば,いささか似ているのは,それはドイツ語である」Adapun bahasa Sanskerta itu |bentuk bangunnya |kalau dibandingkan dengan bahasa-bahasa Eropa sekarang |yang agak mirip |ialah |bahasa Jerman. は完全にジャワ語の構文そのものであることはジャワ語原文と照らし合わせて確認してある。実際に著者プロボチョロコ教授の講義を受けたこともあるスラトノ氏のコメントによると,これは普通の話し言葉のジャワ語の構文であるということだ。

ミナンカバウ語で,またジャワ語の影響のないインドネシア語で言うなら,「ところでサンスクリット語の構造は,現代のヨーロッパ諸語と比べるならば,ドイツ語といささか似ている」 Adapun struktur bahasa Sanskerta itu |kalau dibandingkan dengan bahasa-bahasa Eropa sekarang |agak mirip dengan bahasa Jerman. だというのがミナン出身のラムリ先生の意見であった。

すなわち,「サンスクリット語は,構造は云々」と二段構えになっているのを「サンスクリット語の構造は云々」と一段に整理,また「いささか似ているのは,それは何々だ」とふたつ「は」を使っているところをバッサリ「何々といささか似ている」と単純化してしまう。

これがいいインドネシア語ということのようなのであるが,これでは佐々木先生の出る幕がないというような感じである。すなわち kalau dibandingkan dengan bahasa-bahasa Eropa sekarang を略して図解すると以下の如しである。

1. Bahasa Saskerta itu
1.1 bentuk bangunnya
1.1.1. yang agak mirip
1.1.1.1 ialah |bahasa Jerman.

これを次のように単純化してしまう。
1. Struktur bahasa Sanskerta |agak mirip dengan bahasa Jerman.

上のジャワ語式の構文が「主語」がいくつも出てきているから論理的でないという声も聞かれないわけではないが,それについては,上に 1,1.1, 1.1.1 ,1.1.1.1 と示したように位が違うのだということを理解しない者の声だと対応しておけば済むことである。[Sg 1993.12.23]

象は鼻が長い_a0051297_7544398.gifこれは以前,melma.blog 時代に「'何は何は' の話」(February 12, 2005)として紹介したことがある.そこではこの「インドネシアの家は屋根は壁は」も添えた.

[Sg]



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by sanggarnote | 2007-04-09 07:33 | 文法


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